住宅の気密測定と気密性能について丸わかり解説
住宅を建てる際に重要な要素の一つに「気密性能」があります。今回は、気密性能を測定する「気密測定」の方法について、初心者の方でもわかりやすく紹介します。
目次
気密測定とは?何が分かるのか?
気密測定とは、住宅の隙間を調べて、(換気口を除いて)どれだけの空気が漏れ出す・流入するかを確認する検査のことです。気密性能は、住宅のエネルギー効率や快適性がどの程度か表す一つの指標となります。また、中間測定の場合には実際にすき間に手をあてて風が入るかどうか確認することにより、住宅の気密性能をさらに高めるために必要な改善点を見つけることができます。具体的には、以下のような情報が得られます:
- 家全体の隙間の大きさ
- 隙間がどこにあるのか(中間測定の場合)
- 隙間からどれだけの空気が漏れるか
気密測定を具体的に検討している方はこちらもチェック
気密が住宅に与える影響
気密性能が住宅に与える影響は、大きく分けて三つあります。
換気による空気の循環
気密性が高い住宅では、計画通りに換気が行われます。気密が悪いと、すき間から自由気ままに外気が入り込み換気量や換気経路の制御がうまくいきません。第3種換気の場合、外気が給気口からではなく、隙間から入る「ショートカット」が起きやすくなります。これにより、居室に新鮮な空気が設計通りに供給されず、室内に揮発しているホルムアルデヒドなどの化学物質や湿気・臭気が滞留する空間が発生する恐れがあります。
第1種換気の場合、気密が悪いと熱交換をしていない漏気が増えるので、省エネ効果が下がります。こうなると、エネルギーコストが増加し、環境負荷も大きくなります。(第3種換気の場合はすき間が給気となるだけなので、省エネという点ではそこまで大きな影響がありません。)
熱損失と快適性
気密性能が低い住宅では、夏場や冬場など室内外の温度差が大きい環境で、外気が隙間から流入しやすくなり、居住空間内の温度差が大きくなります。これが居住空間の快適性を損ない、暖房を使っているのに足元が寒く感じたり、冷房を付けているのに暑くて寝付けないといったことにつながります。また冷暖房の効きも悪くなるので電気代も高くなります。折角、住宅の断熱性能を高めていても住宅の気密が悪いと、その効果は半減してしまいます。
壁内結露防止のため
これは特にグラスウールやロックウールなど繊維系断熱材に使用する防湿フィルムが気密層を担っている場合となります。気密層=防湿層の場合、壁体内に水蒸気が侵入しこれが壁体内結露することにより、断熱性能の低下、カビによる健康被害、躯体の耐久性の低下といった様々な問題を引き起こします。
気密の目標数値は?
気密の良し悪しは、一般的には「C値(相当隙間面積)」で表現されます。C値とは、住宅の「総隙間面積」を「実質のべ床面積(吹き抜けや小屋裏・床下空間などの気積を考慮した床面積)」で割った数値のことです。このC値が低いほど、気密性能が高いことを意味します。例えばC値=1.0というと1㎡あたり1㎠の隙間が存在しているということになります。実質延べ床面積100㎡の住宅の場合ですと全部のすき間を合わせて10cm四方角のすき間が存在しているという計算です。
C値の目標数値は住む地域によっても異なります。平成11年の旧省エネ基準では、北海道・青森・岩手ではC値≦2、それ以外の地域ではC値≦5という基準値が設けられていました。しかし、近年の建築技術の進歩も相まって、C値が実際に5を上回る新築はほとんど見かけません。気密測定技能士を取得するためのIBECSのテキストによると、計画的な換気の計画を実現することを考えるならば相当隙間面積C値が少なくとも2.0cm²/m²以下を推奨しています。しかし、C値は経年劣化により住んでから大きくなるといわれていますのでそれを踏まえて気密性能は確保したいところです。東京のような温暖地域であれば希望としてC値=1.0以下を目指せると望ましいといえます。
C値の目標数値については下のコラムでも解説しています。
気密測定のタイミングについて
気密測定は、住宅の建築過程で行うタイミングが2つあります。それは中間時測定と完成時測定です。
中間時測定
中間測定とは文字通り工事の中間時に実施するものです。このタイミングでの気密測定のメリットは気密が悪い原因を特定しやすいので、そこをウレタンや気密テープなどで気密処理することで最終的な気密性能を高めることが出来る点です。具体的なタイミングとしては、
- 現場で外壁面材と野地板を全て貼り終わったタイミング(気密層を外側の面材で取る場合)
- 断熱材の施工が終わったタイミング
となります。
どちらのタイミングで実施するかは工務店次第ですが、どちらのタイミングでも気密を高めることが可能です。
※気密層とは建物内部と外部を隔てる建物全体に連続した層や部分のことです。素材としては空気の透過を防ぐもので、シート材や気密テープ・気密パッキン、木部材、窓枠材・ガラス、合板等、プラスチック系断熱材が該当します。
完成時測定
次に完成時測定ですが、これは最終的な住宅の気密性能を評価します。(本来の気密測定の趣旨でもあります。)完成時には中間時よりも気密層を貫通している配管類が増える傾向がある為、経験的に中間時測定よりもC値が0.1~0.2程度若干落ちる傾向にあります。よほどのことがない限り中間時測定と完成時測定の値はほぼ同じですが、若干条件が違いますので最終的な住宅の性能を確認したい場合は完成時測定が必要です。
関連コラムもあるので興味のある方はご覧ください。
気密測定の具体的な流れ
気密測定の具体的な流れは次の通りです:
①外部風速の確認
②換気口の目張りと封水の確認
③測定機の設置
④送風機の操作
⑤データ収集と計算
⑥結果の分析
それぞれの項目について次に詳しく解説します。
外部風速の確認
気密測定を行う前に外部風速を確認する必要があります。何故なら気密測定は外部風速の影響を受けやすく、風があると気密を正常にはかれない恐れがあるためです。基本的に気密測定を行う際は外部風速が風速3m/s以下かどうかというのが一つの基準となります。また外部風の程度を確認する方法としてビューフォート風力階級と用いることもできます。これによると「顔に風を感じる、木の葉が揺れる」と風速1.6~3.3m/s程度と推測できます。「木の葉、小枝が揺れる」と風速は3.4~5.4m/sとなり、気密測定をするには難しい状況となっていきます。
換気口の目張りと封水の確認
すべての換気口とレンジファン(シーチアであれば不要)、煙突がある場合は煙突の穴を養生テープなどで目張りをします。
ただし、換気システムがダクト式のセントラル方式の場合は第三種換気の場合は屋外側の排気口、第一種換気の場合は屋外側の排気口と給気口を完全に目張りすることで屋内側の換気口の目張りは省略できます。(屋外側で塞げない場合は屋内側で目張りします。)
一方で外に通じる窓やドアなどの開口部については目張りはせずロックだけします。車庫に通じるドアやドアにある郵便受けについては普通に閉めた状態にしておきます。
屋外へ通じる排水管については封水(水が通っているか)の確認をし、中間測定時で封水されていない場合は養生テープで目張りします。
測定器の設置
測定器を設置します。バズーカ型やビニルダクト型の場合は測定器を設置する窓を選定する必要があります。窓を選定するポイントはなるべく小さくかつ、外部風の影響が少ない窓を選定します。
シーチアの場合であればレンジフードに吊り下げて設置をします。
送風機の操作
送風機を操作して住宅内の空気を加圧あるいは減圧して、室内外差圧と風量を段階的に測定していきます。バズーカ型、ビニルダクト型は機械が自動で送風機を操作と平均値の記録をします。シーチアの場合はレンジフードファンを弱・中・強と運転した時の差圧と風量の平均を専用アプリに記録します。
結果の算出
測定が終了すると記録した数値をもとに気密性能を算出します。バズーカ型・ビニルダクト型では機械のモニタに結果が表示されます。シーチアの場合はアプリ画面で結果を確認できます。
業者にもよりますが、気密測定は通常準備から測定・撤収までに平均約3時間くらいかかります。(中間時測定ですき間の特定・手直しをする場合を除く)
また、気密測定は風の影響を受けやすく外部風速3m/s以上の時は測定できないことがあるので注意が必要です。
1回の測定につきだいたい5~8分くらいかかり、合計3回実施した時の平均の数字が基準となります。測定中は全てのドアと窓を施錠しなければならないため、外への出入りはできなくなります。
気密測定結果の見方
気密測定が完了すると以下の数値が算出されます。それぞれの数値について簡単に説明します。
C値(相当隙間面積) | 単位はcm²/m²。相当隙間面積を表し、1m²当たりすき間が何cm²あるかを表します。住宅の気密性能が他と比べてどのくらいかを比較する目安となります。 |
αA(総隙間面積) | 単位はcm²。総隙間面積を表し、家全体でどのくらいのすき間があるかを表します。 |
n値(隙間特性値) | すき間ひとつ当たりの大きさがどのくらいかを判断する指標です。1~2の値で推移し、1に近ければ近いほどすき間一つ当たりの大きさは極小となり、2に近い値の場合は大きな穴がどこかに開いていることが分かります。例えばn値が1.9といった値の時はどこかにすき間や目張りが外れている箇所がないか確認します。 |
Q9.8 | ΔP=9.8Paにおける通気量(m³/h)。室内外差圧9.8Paの時に1時間当たりすき間から流入する通気量を表しています。 |
C値について
C値の目安・基準についてはこちらのコラムで詳しく解説しています。
n値について
n値についての詳しい説明はこちらのコラムで解説しています。
Q9.8についての補足説明
9.8Paと中途半端な値なのは、元々圧力差の単位を1㎜aq(水柱㎜)で計算していたものを世界標準のPaに置き換えるようになったためです。また、1㎜aqという圧力差を基準としていたのはこれが実生活上、自然風によって生じやすい室内外圧力差で、かつこの圧力差の総隙間面積がn値によって左右されないためです。HEAT20(20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)では住宅の気密性能についてC値だけなく、この通気量Q₉.₈に住宅の気積(V)を割った換気回数で表すことを提案・推奨しています。
(計算式で表すと右記のようになります ACH9.8=Q₉.₈/V)
まとめると気密測定は、住宅のエネルギー効率を高め、快適な住環境を実現するために非常に重要です。また気密測定は施工をしっかりしているかどうかのひとつの目安にもなるため、お客様が安心できるお家づくりにつながります。新築住宅を建てる際には、気密測定をこころがけ、適切な気密性能を確保するようにしましょう。(最終更新:2024/10/31)
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